FINLAND EXHIBITION|floating in the silence


音の浮力 -in the Finnish forest-

森の中で急に体が軽くなった。
白夜の反対、極夜という一日中あかるくなる事がないフィンランドの森の中での出来事。
降り積もる雪は柔らかく、
吹く風はとても穏やかだった。
立ち止まり耳にイヤホンをあて、
ピアノの演奏を聴いた。
目の前の木々の向こうには、
オーケストラではなく黒いグランドピアノがひとつだけある気がした。
ピアノの音が静かにゆっくりと溶け込んでくる。
耳から全身へ。
間もなく体が音に包まれて、
その場所だけ全く無重力になったように浮遊する感覚に誘われる。
まばたきをすると目の中で
キラキラと光と音の粒子が銀色に輝いていた。

訪れたのは1月と10月。
薄明かりの極夜と実りの秋のふたつの季節。
どちらも同じくらい静かで同じくらい深い。
大きな森というフィンランドの懐、穏やかな湖という掌。
これほど居心地のいい自然に抱かれることはなかなか無いだろう。