船首千景物語|Stories at the front deck


船首千景物語|Stories at the front deck

もうひとつの非日常

海から陸地を眺めていると灯台をよく見かける。その時によく話題にのぼるのが「灯台もとくらし」という諺だ。この諺の漢字を知ったのは最近のことで「灯台下暗し」と書くと教わった。人は目の前の事に案外気付かない、あるいは探し物は近くにある。そういった意味は理解していたが、灯台がその足下を照らさないことが理由と知った時には、まさに灯台下暗しの気分を味わった。
 この日、にっぽん丸は晴海から神戸に向けて出港した。いつも見ているはずのレインボーブリッジが虹色に光る姿を初めて見た。航海士に尋ねると年末年始だけレインボーにライトアップされるのだという。クルーズはよく非日常と言われるが、ときどき日常も変えて見せてくれる。絶景を見るために旅行をしようと思うと、つい遠くに目的地を探してしまいがちだが、もしかしたら絶景は身近にもあるのかもしれない。

雑誌『クルーズトラベラー』連載企画|vol.10:もうひとつの非日常より抜粋